ある部屋の一室。



 手足を縛られ、猿轡をされた少女たちが数名、怯えた目で男達を見つめていた。




「どうでっしゃろうか?お目当ての子おりますか?」

「どう見ても違うだろコイツら」



 メガネをかけた方の男が、伺う様にもう一人の男に問いかける。

 メガネの男が、一人の少女の顎をもち


「この子とか、どうです?髪型とか同じやありませんか?」

「だから、全員違うって言ってるだろ。俺もビジネスで来てんだ。わかるだろ?」




 男はそう言って、メガネの男を睨みつける。


「あッ、あきまへんか…。いや、そんな事だけで呼んだ訳、無いに決まってますやろ。ワシもちゃんとビジネスで呼んだんやさかい」


 そう言って、メガネの男は、手下に目配せをし、一個のアタッシュケースを運び込む。

 その、アタッシュケースの中には札束が詰っていた。





「おー気が利くねぇ。金はどれだけあっても足りないからなぁ」


「そうでっしゃろ。だから、ビジネスっちゅー事ですわ。ワシらもあんさん所のシマに…」



「それは、言ったろ。目当ての子を見つけたら上に進言してやるって」


「ええやないですか!! こんだけ、あんさん達に貢いでるんやさかい」





 メガネの男は鼻息荒くそう進言する。




「わかってる。だから、今日はお前にこいつを置いていく。せいぜい頑張れよ」



 男は、一枚の写真を渡し、アタッシュケースを持って立ち去る。









「ホンマ、いけ好かない奴やで」



 そう口の中で呟き、メガネをクイッと上げた。






















「土方係長のフォローのお陰で、今回のプレゼン大成功でした。相手先は我々のプロジェクトで、全て任せると」

「そうか、そりゃあ良かったな。おい、次の資料早く持って来い」


「流石です。係長ッ!!!!」



 その時、土方の携帯にメールが一通舞い込んだ。


 ― 『 土方十四郎 』 大手メーカーの凄腕係長。しかしそれは表の顔にすぎない。

 彼には会長直属の特命係長として様々なトラブルを解決するというもう一つの顔があった。


 『 特命係長 土方十四郎 』 ―









 第一話 「 危ない遊びにご用心 」















「失礼します」


 ノックと共に、そう告げて、扉を開ける。


「土方、やっと来たかァ。おじさん、待ちくたびれちまったよ」


 そう言って、タバコをプカプカと吸っている、悪人顔の男が俺に声をかけてきた。
 この男こそ、大手メーカー、徳川堂の会長。松平片栗虎その人である。

「今日は何の用だ。今日も仕事が目一杯詰ってるんだよ」

「そんな事は、他の奴に任せておけばいい。俺の言う事を第一優先にしろオォ」



 そう言って、バッと資料を投げてくる。

 ったく。明日の会議資料に目を通さないといけねぇって言うのに、このオヤジは無茶苦茶だ。


 俺は、タバコの火をつけて、資料に目を通す。
 写っているのは数人の少女の写真だ。


「で、何だこれ?」

「ここ最近かぶき町で、失踪した少女たちのリストと写真だ。この中に徳川堂のお得意先の社長令嬢が含まれているんだよ。

 社長に泣きつかれてなァ。おじさんも同じ娘を持つ身として同情しちまったって訳だ」


 難しそうに眉の間に皺を作り言ってくる。

 それに対して、煙を吐き出しながら



「…先方に恩を売るチャンスにもなるって訳だ」

「分かってるじゃねぇか、トシィー」


 別にアンタに褒められてもなぁ…
 そして、写真を見ながら、自分の愚弟を思い出して

「この年頃のヤツは皆一度は家出とかするんじゃね?」


「断じてありえなァァァい!! ウチの栗子は絶対有り得ません!!
 お父さんそんな子に育てた覚えはありませんッそんな事したら、一緒にいる男を撃ち殺ォォす」


 身を乗り出し俺に銃をむける。


「どっから出したんだ、そんなもん!!危ねぇな、オイッ」


 俺は、そうツッコミ、一服する。



「ひぃ〜じかたァ。特命だ!!栗子と一緒にいる男を連れて来ォい。至急だ今直ぐだ。早くしろォォ!!連れてきたらぶっ殺ォすッ!! 」




「だから、あんたの娘は関係ねぇての!!…ったく面倒くせぇな」









 俺は、そう言って部屋を後にした。



























 ― ある、テニミュの会場にて ―





「で、少女達の周りを調べてみたんですけど、クラブに出入りしてたみたいです」

「クラブ?」


 手帳を広げて、俺にそう説明しているのは、山崎。
 俺の後輩で徳川堂のメールボーイだ。

 この手の情報収集に長けており、特命社員としての顔を知っている数少ない男である。


「そうなんですよ。クラブ。ああ、先輩は知らないかもしれませんけど、部活動とは違いますよ」
「それぐらい。わかってる」


 そう言って、頭を殴る。

「痛ッ!! 何するんですか。そんな殴り方したら、頭ん中のメモリーカードが飛んじゃいますよ」

「それじゃあ、復元するまで殴ってやるよ」


 そう言って、頬をバチバチと叩き続けた。




「ちょ、タンマ。マジやめてッ!!殴らないでッ!!」


 そうしている間に、手塚が語りかけるシーンに入りテニミュも佳境へと入っていく。















「ここがそうです」


 目の前には会員制のクラブがあった。
 一時の儚い夢を追い求め、若い男女が夜な夜な出会いそして踊り明かす。

 そういう所だ。


「で、写真の少女が、中に入っていったという情報を複数名から入手しまして」


 いい具合に赤く腫れた頬をさすりながら、俺に伝える。

「少し張り込むか。じゃあ、山崎後は任せた」



 そういって、牛乳とあんぱんの入った袋を渡す。

「ええええぇ!!嫌です。何で俺が張り込みなんですか!!」


 勢い良く、袋を俺に突き返してくる。
 山崎のクセに…

 俺は煙草に火をつけ


「だって、ほら俺、ミツバいるからな。今日、俺の好きなシチューなんだよ。さっきメールあってさ…」
「何メールなんてしてるんですか。どうせ、何食っても、マヨの味しかしないんだから。俺のソーセージあげますから」

「山崎!!テメェ俺のマヨにケチつけるのか」


 俺は山崎に食って掛かる。
 すると山崎は、ブンブンと手を振って否定して

「別に、マヨにはケチをつけてませんよ。俺は、本当にミツバさんも作り甲斐の無い人を夫にしたもんだって思っただけで」
「もっと悪いわッ!!」

 そう言って、頭をボコボコに殴り倒す。


 そんな事をしていると、一人の女がクラブから出て来る。




 チャンスだ!!
 俺は、そう思いその女に接触し情報を聞こうとするが…







 …




 ………







「おい山崎」

「何ですか?」


「お前、あの女落として、情報手に入れて来い」



 見た目は、うん。
 まぁ、アレだハムだ。


「えっ、嫌ですよ。ハム子は〜」



 俺は、有無も言わさずに、ハム子の前に山崎を蹴り入れる。

「何?アンタ。こんな登場のしかた超ウケル」
「あっ、いやあのネ…」

 山崎は頭をかきながら、俺をチラチラと見て様子を伺ってきたので、

 ジェスチャーで 「やらないとブッ殺す」 と伝えた。
 すると山崎は渋々その女と何やら話し込み、





 そして…


 そのまま、山崎は夜の街へと消えていった…






 だから、俺はその日のミツバのシチューを美味しく食べた。



















 次の日、山崎から連絡があった。

 午後5時、例の店の前で、ゲッソリとした山崎と待ち合わせをする。
 俺はアイツの体など気にせず


「で、何がわかったんだ?」

「ひどいですよ。俺、カラオケだったんですからね」
「あ、それだけ?」


「何ですかその言い方!!いまだに、AIKOが頭から離れなくて辛いんですから」

 俺は、それだけですんで良かったな〜と心底思った。


 そしてタバコに火をつけて、聞き込みの成果を聞く。

「やっぱり、あのクラブのオーナー。何やら少女達に桃色の髪の少女を探して来る様に言っている様です」

「何故そんな事をする必要があるんだ?」
「なんでもオーナーの生き別れた妹を捜しているみたいで、その髪の少女と来店すると、お礼として入場料とドリンクが1杯無料になるらしいです」

 咄嗟に、資料として貰った写真を見ると、全員見事に桃色の髪をしていた。


「なるほど、匂うな」

 そう呟き、俺はタバコに火をつける。

 俺は、少し考えみ空を見上げる。



 初夏の夕焼け空が眩しい。
 日がおちるのは、もう少し先だな…

 そして、





「行くぞ」


「えっ、何処に行くんですか?」

「わかってるだろ。乗り込むんだよ」


 山崎は、焦った顔をして、俺に向かい



「え〜っ!!無理ですって。一人じゃあ」

「何言ってるんだよ。テメェも一緒に行くに決まってるだろ」




 と、山崎の頭を殴り付けた


「酷いッ…」









 そして、見張りの立っている地下クラブの入り口に行く。






「おい、兄ちゃん。会員証を出しな」


 どう考えても、三下が俺に喋りかけてくる。
 俺は、タバコに火をつけて。


「引っ込んでろよ雑魚」


 そう言い、顔に煙を吹きかける。

「テメェ舐めたマネ…フブッ!!」

 男が喋り終わる前に、顔面に一発パンチを見舞い、昏倒させる。

 そして、そいつの腰にある鍵束を山崎に投げ渡し、


「山崎。お前は、裏手に回れ。正面は俺が行く」
「了解ッ!!」

 二手に別れ、俺はドアを蹴破る。
 すると、時間が早いせいか、複数のチンピラ共がたむろしているだけで、拍子抜けする。



「おい。オーナーを出せ」


 そう凄みをきかせて言うが、男たちも負けておらず。

「ああん。勝手に入って来ていい度胸だ」

「お前らの様な下っ端に用はねぇんだよ」
「何をッ!!」

 そう言って、男たちは俺に襲いかかってくる。


 俺は、一人目の男の右パンチをかわし、みぞおちに蹴りを入れ、

 二人目の男のナイフを、右手で叩き落し、そのまま顔面を殴り、
 三人目の男のタックルを、左に避け、四人目の男の鉄パイプによる攻撃を掴み、鉄パイプを取り上げ、二人の腹に一発づつ撃ち込む。

 「ウググ」 と唸る男の一人の髪の毛を掴み上げ、俺の顔の位置まで持ち上げ


「オーナーは何処だ?」
「ヒッ!!殴らないでッ!!オーナーなら、あの扉の向こう側にいます」


 そう言って、扉を指差す。







 俺は、髪の毛を掴んだ手を離し、新しいタバコに火をつけてその扉を開けた。















 扉を開けると少し大きめの部屋に辿り着く。
 その部屋には、マッシュルームカットでメガネをかけた男が立っていた。

 男は、俺を蔑んだ目で見て喋りかけてくる。


「ワシがオーナーや。ワレ何の用や」
「ああ、テメエがさらった女を取り戻しに来た」

「何言とんや。こんな善良な市民を取り上げて、暴力反対やで」

「ちゃんと、証拠はあるんだよ。桃色の髪の女探しているって事はな」


 そう言って、男の目の前に失踪した少女達の写真を投げる。
 すると、先程とは目の色が変わり、


「何や。そこまで知っとったか。ほなしゃあないなぁ」

「何が 『しゃあない』 だ。とっとと、女返せ」


「返せと言われて、返すアホ何処におるねん!! 先生お願いしますわ」




 すると、奥から部屋に青龍刀を持った男があらわれた。


 この男…デキる…。本能的それを肌で感じ取り、俺は、攻撃に備えて構を取る。

 すると、青龍刀の男が一瞬の隙を突いて斬りかかって来た。
 咄嗟の攻撃に、一瞬モーションが遅れ、皮膚を斬られ、頬に傷を負ったが、致命傷ではない。
 青龍刀の男は、次の攻撃に移り、左・右・突きと、連続して攻撃を繰り出して来る。


 俺は、全て紙一重で避けるが、防戦一方だ。




 コイツ、本当に強え…

 あのキノコ野郎に用立てられる奴じゃねぇ…


 肝を冷やしながら、次の一手を考える。

 斬りも突きも一流の使い手に、遅れをとりそうになるが、隙を見ては攻撃を仕掛けようとするが、致命傷には至らず…






 剣道3倍段とは言ったもんだよ。


 紙一重で避けている為、裂傷は避けられず、服や肌を切りつけられ、血が滲む。



「はははっ。ほんまアホやで。早よ、やったってください」


 後ろで、メガネの男が吠える。

 俺もこのままじゃ埒があかねぇと思ってたんだ。
 俺は、青龍刀の男が突きを繰り出した瞬間を狙って、刀へ飛び込む。



「ウグッ…」

 口から、変な声が出たが、構わず全力の拳を、男の腹に捻じ込んだ。












 倒れたのは、青龍刀の男だ。

 本当に紙一重だ。あと数ミリずれると、俺がやられる所だった。






 こりゃあ、相当やべぇのがバックにいるな…




 物騒な直感をひとまず置いておき、目の前の茫然としているマッシュルームに顔を向ける。








「さぁ、お仕置きだぜ」


 俺は怒気をはらませ、男に詰め寄った。

「ちょ、タンマ。アンタの捜している子の居場所は言いますさかい、堪忍して」


 土下座をして、許しを請ってくる。
 本当に小物だなコイツ…


「じゃあ、女たちの居場所を…」


「先輩もう大丈夫ですよ。少女たち全員救出しました。ちゃんとターゲットも確認しましたよッ!」






 どや顔の山崎が俺に大声で伝える。


 ったく遅ぇんだよ。
 疲れきった顔で俺は、タバコに火をつけようとすると




 土下座をしていた男が不意に立ち上がり、懐から銃を取り出し俺に向ける。


「アンタらどうなっても知らへんで!!もうここはアンタらが思てるかぶき町やない、全く違うクニになってもうてるんやで!!」


 わなわなと震えながら、そう叫ぶ。

「…お前、何言ってんだ?」


 冷めた目で、マッシュルームを見ると

「もうおしまいや!!アンタらのせいで、ワシは終わりや!!」



 そう言って、躊躇ナシに俺に銃を撃った。

 本当に、小物は困る…
 そんな、銃の弾はあらぬ方向に飛び、俺は、顎に蹴りを入れる。


 すると、気持ちいい程よくブッ飛んだ。





「ったく。アホらしい」



 そう言って、口にくわえて火をつけていないタバコに火をつける。

 空を見上げると、男の懐から出てきたであろう写真が一枚、宙を舞っていたので掴み取る。











 その写真を見ると…



「ただのガキじゃねぇか…ま、俺には関係ねぇけど」


























 誰に言うでもなく呟き、その写真をライターの火で灰にした。































  
 土方 十四郎
  徳川堂の凄腕係長。マヨシチューと妻をこよなく愛す



  
 山崎 退
  アンパンとソーセージとテニミュに命をかける、土方の後輩。



  
 松平 片栗虎
  思春期の娘を持つ悩める会長。銃と煙草をハードボイルドに決めるガイ!!



  
 クラブのオーナー
  パーティー行かなアカンねんけど…1・2・3・4・カラアゲやんッ!!








 011







  
パラレル編の10話目です。ご満足していただけましたでしょうか?

  何とか、10話まで行きましたッ!!感動です〜ッ^^
  って、また沖田・神楽出てないですねΣw ;
  多分、徳川堂にはエリート社員で 鴨太郎 がいて、
  土方を目の仇にしてるんだろうなぁ…とか妄想して、もふもふしてます<オイッ

  あっ、忘れてました!!
  実はこの話、このあと7話に続くようになっています。
  そう思って、7話の、土方の言葉をきいていただけると、
  また一味ちがった7話になるかと思います。

  もしよかったら、感想くださいv お待ちしておりますッ煤O^












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