とある高層ビルの一室。




 一歩足を踏み入れると、むせ返る程の伽羅の香りが客人を出迎える。


 部屋を見渡すと、家具はすべて中国の伝統的な古典デザインで統一されていて、
 高貴な雰囲気を醸し出していた。 

 え?なぜそんな雰囲気にしているかって?
 かたい事いうなよ


 全部、俺の好みだ。






 そして、その高貴な部屋とは不釣り合いな雰囲気がその場を占めており、高貴とは縁の無さそうな男二人が、
 おちつかない様子で、目をキョロキョロとさせ、部屋の中央に縮こまり立っている。


 その二人の目の前には、柔和な笑みを浮かべた青年が、椅子に座り、目の前の二人に向き合っていた。

 二人は、その青年の一挙手一投足を見逃すまいと見つめ続け、もう小一時間は経っている。




 俺にとっちゃあ、欠伸が出る程、退屈な時間だ。


「ふぁ」






 その欠伸が合図になったのか、痺れを切らしたのか解らないが、青年から喋り出す。








「で、どうして逃がしたの?」






 その柔和な笑みからは、想像できない程の威圧感があった。



 青年からしてみると、全くその気はないのだろうが、

 二人は、これでもかと思う程に背筋を伸ばし、緊張した表情になる。



 そして、二人のうちの一人が、恐る恐るその問いに対して口を開いた




「いや、逃がしたのではなく…逃げら…。
 いやッ、一度は追い詰めたのですが、実は仲間がおりまして、後ろから不意打ちを……」



 言葉を発している男の額からは、汗が浮き出ており、声も震えている。






「うんうん。それで?」






「そ、その後、居場所も掴んだのですが、そこへ急行した所、爆破されてしまいまして…」


 男は、青年にそう説明しながら、ひたすら相手の顔色を窺う。




 すると、青年は、静かに話の続きを促す。



 どうやら、自分の言い分を受け入れてくれていると受け取ったのか、

 直立不動の姿勢から一転、身振り手振りを加え熱心に、



「相手は、思った以上に卑怯な奴でして」


 そう言って、今まで声を発していなかった男に同意を求め、目を向ける。
 すると、もう一人の男も


「そうなんっスよ。相手は、卑怯極まりない奴でして、俺達でもそこまではしねぇだろうって位、卑怯なんスよ〜」



 二人の男は、青年に向かって媚びた愛想笑いを向け続けた。







 さぁ、ここがお前達の正念場だぜ。

 どう、この場を収める?



 人生ってのは、重要な選択肢の連続だ。


 こいつに納得してもらい、最後に懺悔の時間が貰えるか…

 それとも、一瞬にしてミンチにされて殺されるか…















 青年は笑顔のまま「うんうん」と声を出して頷き、









「そんなに卑怯だったんだ。それじゃあしょうがないな」
















「そうなんです」 「そうっス」




 青年の問いに即答して、二人は安堵の溜息をつく。

 一人の男の汗が額から頬・顎へとを伝い、下に落ちる瞬間




 青年が笑顔で




















「じゃあさ、俺とどっちが卑怯?」























 俺の背筋に冷たいモノがサッと通り過ぎた。





























 あーあ、やっちまったな…






 俺は、額に手をあてて、溜息をついた。












 二人は、一瞬で自分の前を通り過ぎた青年に対して、
 何が何だか分からないという表情を浮かべている。


 青年の両手は、真っ赤に染まっており、

 自分に起こったことすら分かっていない二人に、俺は目を向けた。




 俺は、無言で自分の胸を親指で叩く。


 すると二人は恐る恐る、自分の胸にゆっくりと目を移動させ、
 目が胸を確認した途端、ジワジワと赤い鮮血が染み出してくる。



 二人は、空気を求めるかのように口をパクパクと動かし、目で俺に助けを求めて来た。







 助けを求めるんだったら、一時間前に言うんだったな。


 それなら、俺がもっと楽に殺してやったのに…
 優しさで、二人にむかい一言


「ゲームオーバーだ」



 そう声をかけた後、糸が切れた人形の様にその場に崩れ落ちた。
























 俺は、溜息をつき、惨殺魔の方を見る。

 すると青年は、笑顔のまま俺に




「で、どっちが卑怯だったんだろうね?」

 と、問いやがる。



 そんな事知らねぇよ…

 俺は、疲れ切った顔で青年を見て


「俺は、同胞同士の共食いは嫌いなんだ、香主様」


 青年はとぼけた顔をして、

「同胞?こんな弱い奴らが?弱い奴に興味はないよ」


 そういって、まるで何もない床を歩く様に、二人を踏みつけ、ゆっくりと椅子に戻っていく。
 ったく、今まで遊んでいた玩具に興味を失った子供の様に、全く気にもとめねぇ。

 椅子に座ると、座り心地を確かめながら、俺の方を見て


「でさぁ、阿伏兎。俺は、その卑怯者に興味あるんだけどなぁ」



 まーた言ってやがる。香主様の悪い癖だ。

 俺は、ウンザリした顔をワザと見せつける。



 すると、満足した様に俺に笑顔をなげかけて


「俺、出来の悪い妹の行方より、そいつの事が気になるなぁ」






「で、俺に何をして欲しいって言うんだ?」



 その言葉を待っていたかのように、笑顔が弾け










「その卑怯者を連れて来て欲しいんだ。俺の目の前に」






 その顔から笑みが消え、俺は固唾を呑む。

 ゆっくりと椅子から立ち上がり俺の方に近づきつつ







「俺と、戯れる事が出来る位の奴なのか?」


 そう問いかけ、俺の肩をポンと叩くと















「本当に楽しみだよ」





 それだけ告げて、この部屋を出て行った。







































 部屋に残ったのは、俺と二つの亡骸


「あーあ、ったく誰が、こいつ等の処分をすると思ってんだ」

 そう言って、物言わぬ亡骸を見下げる。
 そして、その亡骸に向かって


「選択肢ってのは大切だ」



 人を殺す卑怯者と…

 人を助ける卑怯者…







「さて、俺もビジネスと行きますか」












 俺は、まだ見ぬ卑怯者に対しても同じよう同情せざる得なかった。



























  
 神威
  人を殺す卑怯者。マフィアの香主(若頭)。



  
 阿伏兎
  卑怯者を助ける苦労人。インテリやくざ。







 009









 パラレル編の8話目です。満足していただけましたでしょうか?

 ここまで来たら、敵の全貌も見せないとって事で、
 満を持して、兄貴と、その部下の登場ですッ!!

 出来る限り、敵を強大にしたつもりです。

 だって、本編でも兄貴強いもん(爆)


 もしよかったら感想くださいvお待ちしております^^











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