やべぇ…




 マジ緊張してきた…




 こんな事になったのも、そもそも、山崎のせいだ…


 今から3週間程前、バレンタインデーも終わって一週間が過ぎた頃、
 俺はいつもの通り、チャイナと殺り合った。

 勝負は、いつも通りの引き分けに終わったが、何故かチャイナは俺にチョコボールを寄越した。

 何か裏でもあるのかと思ったが、特に何もなく、
 気にするでもなくチョコボールを食いながら屯所へ戻ると、山崎のヤローに偶々会った。


 俺が、チョコボールを食いながら自分の部屋に戻ろうとしていると

「あれ?沖田隊長珍しいっすね。チョコ食べるなんて」


 地味に声をかけて来た。

 だから、俺もいつも通り

「ん?ああ…これかぃ。さっきチャイナから貰ったんでぇ
 …最近チョコボールを窃盗したチャイナ娘とか指名手配されてねぇか?」

 って聞いた。

 すると、山崎は俺を見ながらニヤニヤとして

「これって、チャイナさんから沖田隊長へのバレンタインチョコなんじゃないですか?」


 ムカつくニヤつき顔だったが、

「そんなんじゃねぇだろい。そもそも、バレンタインデーとかいつのことでぃ…」

「何いってんですか!隊長も乙女心がわかってないんだから。
 好きだからこそ渡しそこねたって事もあるんじゃないですか。あの娘、恥ずかしがり屋っぽいし」


「ありえねぇ…」


 何でぇ、アイツのこと分かってますみたいな顔しやがって、いけすかねぇ…

 何となくムッとしたので、とりあえず山崎を殴ろうとした時、


「いや、充分ありえるぞ。総悟ぉ〜」

 頷きながら、近藤さんが俺の前に現れる。



「恥ずかしがり屋さんは、得てしてそういう子達ばかりだ。そこを、男ならちゃんと分かってやらないといけないぞ」



 近藤さんは自信にあふれた表情で、俺を諭した。


「俺も今年のバレンタインは、逆チョコが流行っているって言うもんだから、
 お妙さんに逆チョコを渡そうと、アタックしている訳なんだが、お妙さんってホラ…恥ずかしがり屋さんだろ。だから…」



 そう言って、近藤さんは懐に手を入れ


「何回もチョコを渡そうとしているんだが、お妙さん…チョコを貰う行為が恥ずかしいみたいで、
 照れてるのか俺を殴り倒すからさぁ…まだ渡せてないんだよ、全く困ったもんだ、ハッハッハ」


 大声で笑いながら、包装されたチョコを愛おしそうに撫でた。


「近藤さん、いい加減現実を見つめた方がいいと思いやすぜ」
「さすがにそれはないと思います、局長」

 と、即座に俺と山崎は断言したが、

 「今日こそお妙さんにチョコを渡すぞ!!」 と意気込んでいる近藤さんに届く事はなかった。




 山崎は、

「ちゃんとホワイトデーのお返しはしないといけませんよ!沖田隊長」


 と去り際に余計な言葉を残して、巡回に出て行った。






 じゃあコレって…





 アレか、バレンタインチョコかぃ…
















 わかんねぇ…





















 そうこうしている内に、ホワイトデー当日になっちまった…











 やべぇ…




 分からねぇままじゃねぇか…






 俺は、朝から目がさえて

 朝焼けに染まる街中をウロウロと歩きまわっている。



 やっぱ、ホワイトデーのお返しっていったら、3倍だろぃ…





 って事は、チョコボールの3倍で酢昆布3箱でいいのか…


 いや、もし、あのチョコボールがバレンタインチョコの意味じゃなかったら…




 『このドSきもいアル、自意識過剰ネ!!』


 『あれ〜総一郎君…もしかして、神楽が渡したチョコ、バレンタインと間違っちゃった?
 ぷププッ…アレ、銀さんのパチンコの景品ププププッ』


 『ちょ、笑ったら、沖田さんに失礼でププププッ…』














 俺、もうかぶき町で生きていけねぇ…





 Sのハートは打たれ弱いっていってんだろおおおぉぉ…









 でも、バレンタインだったら…




 全く解決にもならない妄想をしながら、ウロウロする。


















 やべー…






 いっそチャイナ本人に聞くか…

 いや、本末転倒だろぃ




 駄目だ…

 マジやべー…



 電話…


 そうだ、電話で聞けばいいじゃねぇかッ!!





「すみませーん。沖田って言うんですが、このチョコって本人に返した方がいいですかねぇ?」

『ハッ?何のチョコです?』
「だから、今俺が手に持っているチョコでさぁ」

 そう言って、内ポケットからチョコボールの箱を出す

『で、何でわざわざウチに電話して、そんな事聞くんすか?』

「そりゃあ、決まってんじゃねぇか。落し物は警察に届けるのが普通だろぃ」
『忙しいんで、電話切りますね。沖田隊長』



 ブツッと言う音が耳に響き、ツーツーツーという音になった。



 ったく、警察マジ使えねぇし…

 ていうか、何で俺だってバレた?



 テンパる頭をガシガシ掻いて、次の手立てを考える。





 もう、お天道様は頭の上に来ていた…
















 このままじゃ、埒があかねぇ…



 強行手段にでるか…


 俺は意を決して、万事屋に行く事にした…

 もう玉砕覚悟でぇ…




 もし、メガネが出てきたらチャイナ呼んで貰えばいいし

 チャイナ本人が出てきたら、好都合でぃ…




 力強い足取りで玄関前に立ち、万事屋の戸を叩く





「すいやせーん」


 戸が開くとニュッと顔だけ戸から見えて














「ん?何ぃ?銀さんまだ酒が抜けてなくてシンドイんですけどぉ…」








 ダルそうな旦那が顔を出した…






























 俺は、旦那の顔を見つめて










「スンマセン…間違いやした」


 と戸を閉めた。

















 ヤベェ…


 想定外すぎた…






「ちょっ、間違いって総一郎君…この二階ってココしかないし、間違える場所じゃなくね」


 とか言っている声が背中から聞こえた気がしたが、急いで俺は階段を下りた。














 あのタイミングで旦那が出てくるなんて…



 いつも、寝ころんでジャンプ読んでるだけのキャラじゃねぇのかよ…

 なんで、今日に限って出てくるんでぃ…






 自分のブロークンしていったハートを探しながらトボトボと歩いた。













 もーいいや…


 別に返さないといけねぇ訳じゃねぇし…





 そう自分に言い聞かせながら、屯所へと戻っていく。


 別に、自分に負けたわけじゃねぇ…
 ちょっと、欠けたハートが見つからねぇから部屋に戻って回復するだけでぇ…







 落ち込みながら屯所への道を歩いていると、俺の前の奴らがモーゼの様に二手に分かれた。


 一体何でぇ…




 俺は、毒づきながら歩いていると、前方から、妖怪人間ベラの様な化粧をした女が威風堂々と風を切って歩いて来る。



 なるほど…こんなヤバイ奴がいたらそりゃあ避けて歩かぁ…

 俺は妙に納得して、俺も横に避けようと足を踏み出した瞬間



「よお、サド丸」


 聞き慣れた声が、俺の耳に届いた。

 まず、人ごみの中を探してみる…


 いない…

 俺の空耳かも知れねぇと言い聞かせ、歩みを進めようとする



「何で無視するネ」


 恐る恐る、声のした方を見ると、やはり妖怪人間がいた。

 妖怪人間は、自信満々に胸を張り、俺を見下す様に、いや俺にフェロモンをまき散らす様に見ている…のか?


 俺が見てられないので、目を逸らすと 「フフフッ」 と勝ち誇った笑みをして



「何か言うことないアルか?」

 大人の女性が、惚れている坊やに言う様な口調で問いかける
 俺は、その言葉に圧倒されつつ




「…何か色々凄くね?マジ凄くね?」


 と言った。すると、俺の後ろでは

 「ねぇママ―。ベラがいるよ〜」「しッ…見ちゃいけません」 というやりとりが繰り広げられ、
 「何だ?この特殊メイク完成度高いなぁオイ」 や 「ギヤァアア」「うぉあああ」 などの子供の泣き叫ぶ声や驚愕の声が鳴り響いていた。



 ベラは、周囲からあがる声は、『羨望の声』 を想像していたらしく、今あがっている 『奇異の声』 にダメージを受けた様子だ。

 俺は、大きく溜息をついて、冷めた口調で



「で、何してんでぇ……」

 と声をかける。


 すると、




「べ、別に何でもないアル」

 と、焦った口調になりながら半ベソで、そう答えた。






 俺は、本当に馬鹿でぇ…


 そう思うと、溜息と同時に、笑いがこみ上げてくる。
 自信を取り戻しつつある自分から、



「お嬢さん…こんなに、めかし込んでどこ行くんでぇ」


 と、今までの悩みを跡形もなく吹き飛ばす、勝ち誇った笑顔でそう言った。





「オワタアル……もう」

 チャイナはショボンと口を尖らせている。



 しゃがみ込んでベソをかいているチャイナを見ていると、いつもとのギャップで可愛く思えた俺は、

 自分でもビックリするほどの優しい声で




「じゃあ、飯でも奢ってやるよ」

 そう笑顔で告げる。



「マジでか!!」


 ガバッと顔を上げると、化粧がデロデロに崩れており、妖怪人間って言うより、妖怪そのものじゃねぇか…



 俺は、その顔を見て


「行く前にまずコレで顔ふけよ」

 と俺のポケットに入っていたハンカチを投げる。
 それを受けっ取ったチャイナは、少しハンカチを見つめ


「ばっちぃアル」

 そう言って、俺に返そうとしたから、拭く様に強制した。
 ブーブー言いながらも、顔をふいて、ご丁寧に鼻までかみやがる…


 飯で釣ったとはいえ、機嫌の直ったチャイナは



「何食いに行くアルか?」


 と嬉しそうに俺の顔を覗き込む。

 俺は、その行為に多少ドキッとしつつ、



「何がいいか言ってみろぃ。金に糸目はつけねぇぜ」


 男らしくそう言い切った。

 すると、チャイナは


「じゃあ、焼き肉ッ!!」

 間髪を入れずに返ってきた希望に、

 俺は、大きく頷いて



「じゃあ、行きやすか」




 チャイナは「牛一頭喰うネ」と鼻歌を歌っている。

 俺はその横で、








「ま、これで3倍返しは確実だろィ」


 と小さく言った。

















 -おわり-







  テレビを見ながら神楽ちゃんは、
  近づくホワイトデーで、増えていく特集を観ているうちに期待が膨らみ、
  万事屋チームにはナイショで、おめかしをして当日を迎えました!!
  自信満々で、沖田との遭遇を楽しみにしていたのですが、


  結果は…ご覧のとおりですΣ(:D)TZ

  こちらは、バレンタインの続きになっており、
  前回同様、フリーSSなので、お持ち帰り可能です☆

  よかったら、感想ください!お待ちしておりますΣ^^






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